「何がそんなにいいの?」天然の定義と人造の優位性
僕:最初に天然砥石を見た時に思ったのは、「何がそんなにいいの?」っていう。本に書いてあるのは「切れ味が長持ちする」とか、そういう感覚的な説明しかない。そこを掘り下げたい人は多いと思う。
藤原さん:まず僕らが「天然砥石」って言った時は、「天然の仕上げ(砥石)」しか指してない。荒砥と中砥に関しては、決定的に違うのは「研磨力」。とにかくよく削るっていうのが人造の突き抜けた特性で、硬い刃物に対して傷をつけて早く加工できる。そこの荒い作業を通過して仕上げに行きたいなら、天然の中・荒を使うメリットは実務的には1%もない。(※趣味や好きで使うことは否定していません。)
「ボケて見えにくくなる」天然の中砥石に潜む罠
藤原さん:天然の中砥を使ってから仕上げに行くと、人造砥石の傷が「消えやすい」……あ、消えやすいというか、「見えにくくなる」。人工的な傷がボケて見えにくくなるのが落とし穴なのね。
グラインダーで傷をつけた後にサンドブラストをかけると傷がなくなるのと同じ。あれは光の反射の問題で傷が見えなくなってるだけ。天然の中から天然の仕上げに繋ぐと、本来あるはずの傷が見えにくくなって、綺麗に研げたように見えちゃう。悪く言えば「ごまかし」がすごい聞きやすい。
僕:「お化粧」ですよね。本来ある傷の上に上書きして、見えづらくしてる。でも人造に当てたらめっちゃ傷が出てくる。
藤原さん:そう、うまく研げたように誤解しちゃう。本質的な切れ味や精度を出したいなら、基本的には硬めの石を使って、「石の平面を刃物に転写させていく」ような研ぎをしないといけない。柔らかい石(泥が出る石)を使い続けると、形が崩れていったり、どんどん切れなくなっていく人がめちゃくちゃ多い。
裏押しの恐怖:肉眼では絶対にわからない世界
藤原さん:人造砥石を一番混ぜたほうがいいのが「片刃包丁の裏押し」。柳刃とかで、使って曇る、天然で研いでも曇る。そうなると、裏を研いだ時、刃先の先端まで石が当たっているかどうかが「肉眼では絶対にわからない」。
僕:(図を描きながら)使ってると刃先が丸まっている可能性がある。でも全体が曇っているから、天然で研いでもここ(先端)が当たっているか区別ができない。
藤原さん:そう、だから裏は絶対に人造を混ぜたほうがいい。光る石(人造)で裏を押して、「刃先に当たっているコントラスト」を常に作らないと。裏を天然ばっかりで研いでいる人は、実は刃先が全然研げてない、石が当たっていない。
なぜ「曇る」のか、「光る」のか —— 炭化物の挙動
柿沼:天然は曇る、人造は光る。その理由は何なんですか?
藤原さん:刃物の中には「炭化物」っていう金属の粒子がある。天然砥石はこれよりも研磨力が弱い。そうすると、繋いでいる部分(マトリックス/素地)は削るんだけど、この「粒」は残すんだよね。凹凸がつく、ザラザラになる。光が当たった時、反射が均一じゃなくなるから「曇る」。
人造は、こいつ(炭化物)に勝てる硬い砥粒が入ってる。綺麗に全部、ほぼフラットに削ってしまうから鏡みたいに「光る」。
1/1000mm(ミクロン)の世界と長切れの正体
藤原さん:僕らが言っている鋭利さって、0.001mm(ミクロン)の世界。PM2.5が見えないのと同じレベルの話。みんな「返り(かえり)」を指で触って出すけど、目に見えたり手でわかったりする返りは「お話にならない」。
本当に切れるようにしようと思えば思うほど、返りはできる限り出さない。手で感じないくらいの返りをキャッチする感度が必要なのね。
僕:10メートルの巨大な岩と、1センチのパチンコ玉を比べてるような世界ですよね。
藤原さん:天然で研ぐと、先端に「炭化物」が残る。これが三角形の先端に残ることで、ブドウの房を逆さにしたような構造になる。これが強度の強さ、長切れに繋がる。人造で無理やり尖らせると、先端が薄くなりすぎてポロリと取れて「台形」になっちゃうこともある。
結論:見たくないものに向き合う
僕:人造を使うっていうことは、自分が研げていないことに向き合わされる。「見たくないものが見えてきちゃう」から。
藤原さん:天然だと上手く研げたように見えて、自分にごまかしが効いちゃう。「上手いですね」って持ってきても、人造を当ててみたらボコボコで「マジですか」ってなる人は多い。
自分の見る目もごまかされてしまうから、上手くなりたいんだったら、人造を上手く使って精度を出す。見えにくい世界で起きてることを理解して使うのが、一番大事かなと思うね。